私たちの性格は、経済や文化の指標とどのように関係しているのでしょうか。
性格という個人的な特徴が、文化や社会の指標と結びついているとしたら、とても興味深いことですよね。
実は最近、そんな研究が発表されたんです。
論文のタイトルは「Personality Profiles of Cultures: Aggregate Personality Traits」。
51カ国、1万2千人以上を対象に、ビッグファイブと呼ばれる性格の5つの特徴を調べたところ、国ごとに異なる性格パターンが見えてきたんだとか。
しかも、その違いは文化的な価値観や経済状況とも関係していたんです。
この研究は、性格という身近な概念から、国民性という大きなテーマに迫る画期的な試みといえるでしょう。
今回は、この研究を分かりやすく解説しながら、性格と文化の不思議な関係について考えてみたいと思います。
今回も、性格研究者で悪者図鑑著者のトキワ(@etokiwa999)が解説していきます。
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目次
- 1 性格から国民性を探る:51カ国の比較研究
- 1.1 性格の5つの指標「ビッグファイブ」
- 1.2 12,000人以上の大規模調査で性格を測定
- 1.3 個人の性格を集約して国民性をとらえる
- 1.4 文化指標:権力格差の小さい国は外向的で開放的
- 1.5 文化指標:個人主義の国民は外向的、協調的、誠実
- 1.6 文化指標:不確実性を避ける国は神経症的傾向が高い
- 1.7 文化指標:精神的自立性の高い国は開放的
- 1.8 文化指標:平等主義的な国は外向的で開放的
- 1.9 文化指標:宗教性の低い国ほど開放的
- 1.10 文化指標:運命を信じない国民は外向的
- 1.11 経済指標:豊かな国ほど外向的で開放的、協調的
- 1.12 経済指標:所得格差と性格に明確な関連はなし
- 1.13 経済指標:人間開発が進んだ国は外向的で開放的
- 1.14 幸福度の高い国は外向的、開放的、協調的
- 1.15 同じ国でも地域によって性格は異なる
- 1.16 アメリカの調査地点で外向性に大きな違い
- 1.17 性格から見た国民性の理解が進む
- 1.18 文化比較研究に新たな視点
- 1.19 より代表性の高いサンプルでの検証が必要
- 1.20 文化の多様性を尊重しつつ、共通性も探る
- 2 最後に
性格から国民性を探る:51カ国の比較研究
性格の5つの指標「ビッグファイブ」
心理学では、様々な性格検査がありますが、その一つに人の性格を5つの次元で捉えるものがあります。
これは、ビッグファイブ(Big Five)と呼ばれるモデルです。
5つの次元とは、以下のようなものです。
- 外向性:社交的で積極的な傾向
- 協調性:思いやりがあり協力的な傾向
- 誠実性:目標に向けて頑張る傾向
- 神経症傾向:不安や心配が多い傾向
- 開放性:新しいことに興味を持つ傾向
これらの性格指標は、個人差を理解するために使われてきました。
しかし近年、文化や国民性を理解する新たな方法として注目されているのです。
12,000人以上の大規模調査で性格を測定
今回の研究では、51の国と地域から12,000人以上が参加しました。
参加者は大学生で、身近な人の性格を評定する方式でした。
性格の測定にはNEO-PI-Rという質問紙が使われました。
これは、ビッグファイブの5つの次元をさらに6つずつの下位尺度で測定するものです。
つまり、全部で30の尺度から性格を多面的に捉えることができるのです。
調査は、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカなど、世界中の国々で行われました。
このような大規模な調査は、文化比較研究では珍しく、とても貴重なデータといえるでしょう。
個人の性格を集約して国民性をとらえる
この研究の目的は、個人の性格データを国ごとに集約し、国民性を明らかにすることでした。
まず、NEO-PI-Rの30尺度について、国ごとに平均値を算出しました。
これが、各国の性格の特徴を表す指標となります。
ただし、このような集約的なデータが心理学的に意味のあるものかどうかは慎重に検討する必要があります。
そこで、年齢や性別による違いを確認したり、因子構造を検討したりしました。
その結果、個人レベルと同様の因子構造が確認され、国民性を性格から捉える方法の妥当性が示唆されました。
この研究は、これまでの常識を覆す新しい知見をもたらしたといえるでしょう。
文化指標:権力格差の小さい国は外向的で開放的
ホフステッドという人の文化的価値観の研究では、国民の価値観や文化を表す指標が提案されています。
その1つが、権力格差という次元です。これは、社会における権力の不平等さの程度を表します。
今回の研究では、権力格差が小さい国ほど、外向性と開放性が高いことが明らかになりました。
権力格差の小さい社会では、自由に意見を言い合ったり、新しいことに挑戦したりしやすいのかもしれません。
一方、権力格差の大きい社会では、身分や地位によって人々の行動が制限され、慎重な態度が求められるのかもしれません。
このように、性格と文化的価値観の関連を探ることで、社会の仕組みを理解する手がかりが得られそうです。
文化指標:個人主義の国民は外向的、協調的、誠実
ホフステッドのもう1つの重要な次元が、個人主義と集団主義です。
個人主義が強い社会では、個人の自由や権利が重視されます。
一方、集団主義の社会では、所属する集団への忠誠心や協調性が求められます。
今回の結果から、個人主義の国では外向性、協調性、誠実性が高いことが示されました。
個人主義の社会では、自分の意見を積極的に主張したり、自分の目標に向かって努力したりする傾向があるのかもしれません。
その一方で、他者への思いやりや協力の精神も大切にするのでしょう。
このバランスが、個人の自由と社会の調和を両立させる鍵となるのかもしれません。
文化指標:不確実性を避ける国は神経症的傾向が高い
ホフステッドの文化的価値観には、不確実性の回避傾向という次元もあります。
これは、未知の状況や不確実な事態に対する脅威の感じ方を表します。
不確実性の回避傾向が強い社会では、リスクを避け、ルールや規範を重視する傾向があるといわれています。
今回の研究では、不確実性の回避傾向が強い国ほど、神経症傾向が高いことが示されました。
予期せぬ出来事に直面したとき、不安や心配が強くなるのかもしれません。
その結果、厳格なルールで社会を統制しようとするのかもしれません。
この知見は、文化と個人の心理的適応の関係を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。
文化指標:精神的自立性の高い国は開放的
シュワルツは、ホフステッドとは別の文化的価値観の枠組みを提案しています。
その1つが、精神的自立性という価値観です。
これは、自分自身の考えや感情を大切にし、独自の目標を追求する傾向を表します。
今回の研究から、精神的自立性の高い国は、開放性も高いことが明らかになりました。
新しいアイデアを受け入れ、多様な価値観を尊重する姿勢は、精神的な自立と通じるものがあるのかもしれません。
自分らしさを追求する自由は、文化的な豊かさにもつながるのではないでしょうか。
精神的自立性と開放性の関係は、現代社会を生きる私たちに、大切なメッセージを送ってくれています。
文化指標:平等主義的な国は外向的で開放的
シュワルツの文化的価値観のもう1つの重要な側面は、平等主義です。
平等主義的な社会では、全ての人が対等に扱われ、機会の平等が保障されます。
そこでは、社会的な地位よりも、個人の能力や努力が評価されます。
今回の研究から、平等主義的な国は、外向性と開放性が高いことが示唆されました。
平等な社会では、自分の意見を自由に表明でき、多様な考え方が受け入れられるのかもしれません。
そのような環境は、人々を活発で創造的にするのでしょう。
平等主義と性格の関連は、より良い社会を築くためのヒントを与えてくれます。
文化指標:宗教性の低い国ほど開放的
価値観や文化を形作る上で、宗教の果たす役割は大きいといえます。
リュンとボンドは、宗教に対する考え方を表す尺度を開発しました。
それによると、宗教性の高い社会では、伝統的な価値観や規範が重視される傾向があります。
今回の調査から、宗教性の低い国ほど、開放性が高いことが明らかになりました。
宗教的な制約が少ない社会では、既存の枠組みにとらわれない自由な発想が生まれやすいのかもしれません。
ただし、宗教と文化の関係は複雑で、一概に結論づけることはできません。
宗教性と開放性の関連は、文化と個人の心理を探る上で、興味深い論点を提供してくれます。
文化指標:運命を信じない国民は外向的
人生は自分の努力で切り開くべきか、それとも運命に委ねるべきか。
この問いは、文化によって異なる答えが用意されているようです。
リュンとボンドによる「社会的公理」の1つに、運命主義があります。
今回の研究では、運命を信じない国ほど、外向性が高いことが示されました。
自分の力で人生を切り開こうとする姿勢は、外向的な行動を促すのかもしれません。
一方、運命を信じる文化では、自分の意思よりも周囲との調和が重視されるのかもしれません。
このように、運命観と性格の関係は、文化の多様性を浮き彫りにしてくれます。
経済指標:豊かな国ほど外向的で開放的、協調的
国の経済的豊かさは、人々の性格にも影響を与えるのでしょうか。
その手がかりとなるのが、1人あたりのGDP(国内総生産)などの経済指標です。
今回の調査では、GDPが高い国ほど、外向性、開放性、協調性が高いことが示されました。
豊かな社会では、自己表現の機会が多く、新しいことへの挑戦が奨励されるのかもしれません。
また、経済的に恵まれた環境は、他者への思いやりや協力関係を育むのかもしれません。
ただし、この結果の解釈には注意が必要です。
経済発展と性格の因果関係は明らかではありません。
むしろ、国民性が経済発展に影響を与えている可能性も考えられます。
経済指標:所得格差と性格に明確な関連はなし
「貧富の差」は、社会の安定を脅かす問題として注目されています。
所得の不平等さを表す指標の1つに、ジニ係数があります。
係数が大きいほど、所得分配の不平等が大きいことを示します。
今回の研究では、ジニ係数と性格の間に、明確な関連は見られませんでした。
ただし、これは所得格差と心理的な影響が無関係だと結論づけられる訳ではありません。
格差の問題は複雑で、一律に性格と結びつけることはできないのかもしれません。
むしろ、格差が生み出す社会的な不公正感や、相対的剥奪感などに着目する必要があります。
所得格差と性格の関係については、さらなる検討が求められます。
経済指標:人間開発が進んだ国は外向的で開放的
国の豊かさを測る指標は、経済面だけではありません。
国民の教育水準や健康状態、生活の質なども重要な要素です。
これらを総合的に評価したものが、人間開発指数(HDI)です。
今回の分析から、HDIが高い国は、外向性と開放性も高いことが示されました。
教育を受ける機会が多く、健康的な生活が送れる社会では、人々は積極的に社会に参加し、新しいことに挑戦するのかもしれません。
ただし、この関連は経済的豊かさの影響を受けている可能性もあります。
人間開発と性格の関係を明らかにするには、経済指標などを統制した分析が必要でしょう。
国の発展を多面的に捉える視点は、文化と個人の関係を探る上で欠かせません。
幸福度の高い国は外向的、開放的、協調的
幸福な人生を送るために大切なことは何でしょうか。
この問いに対する答えは、国や文化によって異なるかもしれません。
世界価値観調査では、主観的幸福度を国ごとに比較しています。
今回の研究では、幸福度の高い国は、外向性、開放性、協調性も高いことが明らかになりました。
積極的に他者と交流し、新しい経験に開かれている姿勢は、幸福感を高めるのかもしれません。
また、思いやりの心を持ち、助け合える関係は、人生の満足度を高めるのでしょう。
ただし、幸福の意味は文化によって異なります。
それぞれの文化に適した幸福観を大切にしながら、普遍的な要素を探ることが求められます。
同じ国でも地域によって性格は異なる
国民性を論じる際には、国内の多様性にも目を向ける必要があります。
今回の調査では、アメリカとブラジルでは複数の地域からデータが集められました。
その結果、アメリカでは外向性に地域差が見られました。
最も外向的な地域と内向的な地域では、世界の国々と比べても大きな違いがあったのです。
このことは、国民性を一枚岩として捉えることの危険性を示唆しています。
同じ国の中でも、地域によって文化や価値観が異なることを忘れてはいけません。
国民性を探る研究では、国内の多様性にも十分な注意を払う必要があるでしょう。
アメリカの調査地点で外向性に大きな違い
アメリカは、世界でも有数の多民族国家として知られています。
人種や民族、出身地域などによって、文化的背景が大きく異なります。
今回の調査では、アメリカの4つの地域で外向性に大きな違いが見られました。 最も外向的だったアイオワ大学は、他の51カ国と比べても最高レベルでした。
一方、最も内向的だったサンフランシスコ州立大学は、51カ国の中央値程度でした。
このように、同じ国の中でも地域によって、性格傾向が大きく異なることが明らかになりました。 アメリカという国の多様性を象徴する結果といえるでしょう。
国民性を論じる際には、このような地域差にも目を配る必要があります。
性格から見た国民性の理解が進む
今回の研究は、性格から国民性に迫るユニークな試みでした。
51カ国、1万2千人以上を対象とした大規模な調査は、文化比較研究の新たな地平を切り開くものです。 個人の性格データを集約することで、各国の性格的特徴が明らかになりました。
また、性格と文化的価値観や経済指標との関連も示唆されました。 この知見は、国民性を多面的に理解する上で、重要な手がかりとなるでしょう。
一方で、今回の結果はあくまで相関関係に基づくものです。 因果関係を明らかにするには、より精緻な研究デザインが必要です。
また、国内の多様性に目を向けることも大切です。 総じて、この研究は国民性理解に新たな視点を提供したといえるでしょう。
文化比較研究に新たな視点
文化を比較する研究では、言語や習慣の違いが大きな障壁となります。
質問紙の翻訳が適切かどうかも重要な問題です。 そのような中で、今回の研究は新しい方法を提案しました。
それは、性格という普遍的な概念を通して、文化を比較するというアプローチです。 性格の5因子モデル(ビッグファイブ)は、世界中の言語で再現性が確認されています。
この共通言語を用いることで、文化の壁を超えた比較が可能になります。 また、個人の性格を集約するという発想も斬新でした。
心理学では、個人差の研究が主流ですが、それを文化レベルに拡張する試みは画期的といえます。
性格から文化・習慣へ。この研究は、新しい研究の方向性を示したのです。
より代表性の高いサンプルでの検証が必要
今回の研究には、いくつかの課題も残されています。
1つは、サンプルの代表性の問題です。 調査の参加者は、各国の大学生とその知人に限定されていました。
果たして、彼らが各国の国民性を代表しているかどうかは定かではありません。 特に、学歴や社会経済的地位による偏りが懸念されます。
より幅広い層を対象とした調査が求められるでしょう。 もう1つの課題は、サンプルサイズです。
今回は1カ国あたり約200名のデータが収集されましたが、国民性を論じるにはまだ不十分かもしれません。 今後は、より大規模な調査を行う必要があります。
ただし、そのためには多大なコストと労力が必要です。 データの代表性と現実的な制約のバランスを取ることが肝要です。
文化の多様性を尊重しつつ、共通性も探る
文化を語る際、私たちは2つの過ちに陥りがちです。
1つは、自文化の物差しで他文化を測ってしまうこと。 もう1つは、文化間の違いを強調するあまり、人間としての共通性を見失ってしまうこと。
確かに、世界には実に多様な文化が存在します。 価値観や行動様式は千差万別で、尊重されるべきでしょう。
しかし、どんなに異なる文化の人々にも、共通する心理的基盤があるはずです。 今回見出された性格と文化の関連は、そのような普遍性の一端を示しているのかもしれません。
大切なのは、多様性を認めつつ、共通性も探ることです。 それは、異文化を理解し、対話するための出発点となるでしょう。
文化と個人の関係を探求する心理学研究の意義は、そこにあるといえるでしょう。
最後に
以上、性格と国民性に関する最新の研究を紹介してきました。
この研究は、個人の性格が文化や社会と深く結びついていることを示唆しています。
外向的な国は個人主義的で、開放的な国は精神的自立性が高い傾向があるなど、性格と文化の間には興味深い関連が見られました。
また、経済的豊かさや人間開発の度合いとも、性格は関係していたのです。
もちろん、今回の研究にも課題はあります。
サンプルの代表性や因果関係の問題など、さらなる検討が必要でしょう。
それでも、この研究は文化を理解する新しい視点を提供してくれました。
性格という普遍的な概念を通して、世界の多様性に迫る。
そんな研究のアプローチは、グローバル化が進む現代社会を生きる私たちにとって、重要な示唆に富んでいます。
文化の違いを超えて、人間としての共通性を探ること。
そこから、互いを理解し、認め合うことが始まるのかもしれません。
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ライター 兼 編集長:トキワエイスケ @etokiwa999
株式会社SUNBLAZE代表。子どもの頃、貧困・虐待家庭やいじめ、不登校、中退など社会問題当事者だったため、社会問題を10年間研究し自由国民社より「悪者図鑑」出版。その後も社会問題や悪者が生まれる決定要因(仕事・教育・健康・性格・遺伝・地域など)を在野で研究しており、社会問題の発生予測を目指している。凸凸凸凹(WAIS-Ⅳ)。