性格フィードバックは、自分のことを見直すための大切なきっかけになります。
ふだん私たちは「自分は優しい」「正直なほうだ」と思い込んでいることがありますが、それが本当に他人からもそう見えているとは限りません。
今回紹介する論文「Personality Feedback as an Intervention to Encourage Positive Changes on Moral Traits」では、自分自身と他人の評価のズレを知ることで、正直さや謙虚さがどう変わるのかを調べました。
参加者の多くは「自分はもっとできていると思っていた」と驚き、そこから「もっと良くなりたい」という気持ちが生まれました。
この記事では、その研究をもとに、性格フィードバックがどのように心に影響を与え、行動の変化につながるのかをやさしく解説します。
今回も、性格研究者で悪者図鑑著者のトキワ(@etokiwa999)が解説していきます。
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目次
性格フィードバックとは何か?
性格フィードバックはどんな仕組みなのか
まず性格フィードバックとは、自分の性格を他人の目を通して知る方法です。
この研究では、参加者が自分の性格を評価し、
そのあと友人などの知人にも同じように評価してもらいました。
その結果を比較して、本人に伝えるのがフィードバックです。
とくに扱われたのは以下の5つの道徳的な性格特性です。
- 正直(うそをつかない、誠実である)
- 謙虚さ(自慢しない、控えめである)
- 公平さ(みんなを同じように扱う)
- 思いやり(人にやさしくする)
- 感謝(ありがとうと言える気持ち)
本人と他人の評価を見比べることで、
自分では気づかない性格のズレが見つかります。
このズレが、新たな気づきや変化のきっかけになります。
まとめると、性格フィードバックは自分を見直すための鏡のような役割です。
なぜ人は自分を実際よりもよく見てしまうのか
人は自分のことを他人よりも道徳的だと思いがちです。
この考え方は「自己美化」と呼ばれる心理の一種です。
自分の行動以上に、自分をよく見せたくなるのです。
この研究でも、多くの参加者がそう感じていました。
- 正直さは64.7%の人が「自分は平均より上」と回答
- 思いやりでは88.2%の人が「自分は上」と考えていた
- ところが、評価の結果はそれよりも低いことが多かった
こうしたギャップは、自分を客観的に見る難しさを表しています。
また、自分の良いところだけを信じたいという心の防衛反応もあります。
そのため、実際の性格とのズレに気づきにくくなるのです。
要するに、人は自分の性格に対して甘くなりやすいということです。
正直や謙虚さが性格フィードバックで注目される理由
正直さと謙虚さは、変わりたいと思う気持ちが生まれやすい特性です。
この研究では、性格フィードバックのあとに、
「変わりたい」と思う目標がどれだけ増えたかを調べました。
その中で、とくに大きく変化したのが以下の2つでした。
- 正直さの変化の大きさ(効果量)=0.59
- 謙虚さの変化の大きさ(効果量)=0.35
なぜこの2つが注目されたのでしょうか?
それは、自分が思っていたよりもスコアが低かった人が多かったからです。
意外な結果に驚き、もっと良くなりたいという気持ちが強くなりました。
つまり、正直と謙虚さは、他の人とのズレに気づきやすく、
そのぶん成長につながりやすい特性なのです。
性格フィードバックが心に与えるインパクト
性格フィードバックは、驚きと考えるきっかけをもたらします。
参加者の多くが「意外だった」と感じました。
とくに、思っていたより低かった正直さや謙虚さのスコアに驚いていました。
この驚きは、心を動かす大きなきっかけになります。
- 自分の評価と他人の評価がズレていた
- そのズレを説明しようと考え始めた
- やがて「どう変わればいいか」を考えるようになった
驚くことで、自分の行動を振り返り、
「もっと本当の自分を出したい」と思うようになります。
つまり、性格フィードバックは気づきを与える刺激になります。
性格フィードバックはどうやって行われたのか
この研究では、2つの段階で性格フィードバックが行われました。
まず、参加者自身が51項目の質問に答えました。
次に、知人3~5人にも同じ質問をしてもらいました。
その評価を集めて、本人に伝える形をとりました。
- 各特性の平均点(1〜5)
- 同年代と比べた順位(1%〜100%)
- 標準化された点数(スタナインスコア)
評価は本人と知人に分けて表示されました。
これにより、「自分と他人の見方の違い」がはっきりしました。
最後に、心理士との面談で感想や行動目標について話しました。
この方法により、性格フィードバックが心の変化を起こすかを調べたのです。
性格フィードバックで見えた若者の本音
正直のスコアが低くて驚いた人の声
正直さのスコアが低かったことで驚く人が多くいました。
自分では正直だと思っていたのに、点数はそうでもなかったのです。
特に「平均より下」と出たとき、気づきと混乱が生まれました。
- 「自分はうそをつかない」と思っていた
- でも、白い嘘をつくことを思い出した
- ときにはルールを守らないこともあった
こうした行動が評価に影響していたことに、後から気づきました。
また、他人の前で本音を言わないことも、
「正直でない」と見なされる原因の一つでした。
このように、自分では正しいと思っていた行動が、
他人からは違って見えることに驚いたのです。
謙虚さに自信があった人の反応
「自分は謙虚だ」と思っていた人も、低スコアに驚きました。
謙虚さとは、自慢をしないことや控えめな態度を意味します。
しかし、多くの人がその評価にギャップを感じていました。
- 「自分を特別だと思っていない」と信じていた
- でも、SNSで自分の生活をよく見せていた
- 人の話より自分の話が多かったと気づいた
ある人は「高級車に憧れているけど贅沢好きではない」と言いました。
また、「もっと自然体でいたい」と感じた人もいました。
このように、謙虚さへの気づきは、人との関わり方を見直す機会となりました。
自分をよく見せたい気持ちとの葛藤
人は他人に良く見られたいという気持ちを持っています。
そのため、自分の行動を少しよく思い込んでしまうことがあります。
性格フィードバックを受けたことで、そのズレが見えてきました。
- 「優しく見せたいから無理して笑う」
- 「いい人と思われたくて断れない」
- 「本当の自分と違うふるまいをしていた」
こうした気持ちは決して悪いものではありません。
けれど、続けるうちに「本当の自分って何だろう?」と悩むことがあります。
フィードバックはその疑問を生み出すきっかけになりました。
つまり、見せたい自分と、実際の自分との間で葛藤が起きたのです。
他人からの評価に安心したという意見
一方で、他人の評価が思ったより高くて安心した人もいました。
自己評価よりも、友人の評価の方が良かったケースです。
このような結果は、心の支えとなりました。
- 「私はあまり自信がなかったけど…」
- 「友達がいいふうに見てくれていて嬉しかった」
- 「自分の良さに気づくことができた」
知人たちの意見は、自分が気づいていなかった一面を教えてくれました。
また、「ちゃんと伝わっているんだ」と感じられる安心感もありました。
このように、フィードバックが自信を育てるきっかけにもなったのです。
評価が低くて傷ついたという正直な感想
反対に、評価が低くて悲しくなった人もいました。
特に、自分では大事にしている特性で低評価だった場合に強く感じました。
- 「公平だと思っていたのに、そう見られていなかった」
- 「自分の思いが伝わっていなかったと感じた」
- 「なぜ低いのか理由がわからずつらかった」
ある人は「自分にとって大切な価値観が認められていないようで傷ついた」と話しました。
また、「相手が自分をちゃんと理解していないのでは」と感じることもありました。
しかしその一方で、その違和感が自分を見直すきっかけにもなったのです。
心に痛みがあっても、それが前向きな行動へとつながることもあります。
性格フィードバックが変化を生むきっかけに
驚きが「変わりたい」気持ちを生んだ理由
フィードバックで感じた驚きが変化の出発点になりました。
参加者の多くは、評価を見た瞬間に想像と違っていて戸惑いました。
この「予想外」が、自分を見直す力になります。
- 「自分はもっと正直だと思っていた」
- 「謙虚だと信じていたのに違った」
- 「思ったより評価が低くてショックだった」
その違いに直面することで、「どうすればいいのか」と考え始めます。
人は、自分と他人のイメージにズレがあるときに、
そのズレを埋めようとする気持ちが働くのです。
つまり、驚きはただの感情ではなく、行動につながる力を持っています。
自分の弱点に気づいて行動を変えた例
自分の性格の弱点に気づいた人たちは、変化の努力を始めました。
評価をきっかけに、「どうすればよくなるか」を考えたのです。
- 「もっと正直に気持ちを伝えたい」
- 「自慢話を減らして、相手の話を聞こうと思った」
- 「誰に対しても公平に接するよう心がけた」
ある人は「優しくふるまっていたけど、それが本当の自分か分からない」と話しました。
だからこそ、「もっと本音で人と関わりたい」と思うようになったのです。
自分の中にあった課題が、具体的な行動目標に変わっていきました。
正直になりたいけどぶつかる不安とは
正直になろうとするとき、葛藤や不安も生まれます。
「正直に言うと相手を傷つけるかもしれない」といった心配があるのです。
- 「うそをつきたくないけど、波風を立てたくない」
- 「思ったことを全部言っていいのか迷う」
- 「正直さとやさしさの間で悩む」
ある参加者は「もっと本物の自分でいたい」と言いつつ、
「でも、それで関係が悪くならないか心配」と話していました。
このように、正直さは簡単に変えられるものではなく、
人との関係も考えながら少しずつ向き合っていく必要があるのです。
謙虚になるために意識したこと
謙虚さを高めようとした人は、自分のふるまいを振り返っていました。
「謙虚でありたい」という気持ちはあっても、実際には難しい場面もあります。
- 「自分の話をする回数を減らすようにした」
- 「SNSに自慢っぽい投稿をしないよう気をつけた」
- 「相手を立てるような言い方を意識した」
一人の参加者は、「つい自分の成果を話してしまう」と悩んでいました。
そこで、「もっと他の人の話を聞くようにした」と言っています。
謙虚さは行動の中で少しずつ表れてくるものであり、
意識することで変えていける特性でもあるのです。
変わりたいけど何をすればいいかわからない悩み
変わろうと決めても、どう変えればいいか迷う人もいました。
「もっと正直になりたい」と思っても、
どんな行動がそれに当てはまるのかがはっきりしなかったのです。
- 「何から始めればいいのかが見えない」
- 「行動に移す方法がわからない」
- 「目標がぼんやりしていると感じた」
参加者の中には、「もっと思いやりを持ちたい」と言いながら、
具体的な行動に落とし込めていない人もいました。
このように、気づきがあっても実際に変わるにはサポートが必要です。
変化には、目に見える目標と、続けるための方法が大切なのです。
性格フィードバックの効果を数字で見る
フィードバック後に変化した性格特性は何か
性格フィードバックの後、いくつかの特性で変化が見られました。
とくに正直さと公平さで変わりたいという気持ちが強まりました。
研究では、性格の変化を数値で確認しています。
- 正直さの変化量:効果量0.59(中程度の変化)
- 公平さの変化量:効果量0.58(中程度の変化)
- 謙虚さの変化量:効果量0.35(小~中の変化)
- 思いやりの変化量:効果量0.28(小さな変化)
- 感謝の変化量:ほぼ変化なし(効果量≒0)
このように、すべての特性が同じように変わるわけではありません。
とくに「自分の期待と評価が大きくズレた特性」で変化が大きくなりました。
つまり、驚きや気づきがあったときに、人は変わろうとするのです。
正直さの変化はどれくらいあったのか
正直さは最も変化が大きかった特性です。
フィードバック後、多くの人が「もっと正直になりたい」と感じました。
これは、自分の理想と評価の差に驚いたことが関係しています。
- 自分は正直だと思っていた
- でも、評価は平均より低かった
- そのギャップにショックを受けた
正直さとは「うそをつかない」「本音で話す」などの行動を含みます。
しかし、実際には白い嘘をついたり、気まずさを避けるためにごまかしたりします。
こうした行動が評価に反映され、「もっと正直でありたい」という目標につながりました。
フィードバックは、正直さについて考える強いきっかけになったのです。
謙虚さのスコアがどう変わったか
謙虚さでも変化の兆しが見られました。
効果量は0.35で、やや控えめな変化でしたが、
それでも「自分を見つめ直す」には十分な影響がありました。
- 自分は謙虚だと思っていた人が多かった
- しかし、評価が予想より低く驚いた
- そのため、もっと控えめでいたいと思うようになった
謙虚さとは「自慢しない」「他人を立てる」などの態度です。
SNSでのふるまいや日常会話の中で、意外と自分中心になっていることに気づく人もいました。
このように、謙虚さは自分では気づきにくい特性だからこそ、
フィードバックを通じて見直すチャンスになったのです。
思いやりや公平さの変化はあったのか
思いやりや公平さにも、小さいながら変化が見られました。
とくに公平さでは効果量0.58と、正直さに次ぐ変化の大きさでした。
これは「人によって態度が変わる」ことに気づいた人が多かったからです。
- 好きな人には親切にする
- 苦手な人には少し冷たくしてしまう
- それが公平でないと気づいた
思いやりについては、もともとの自己評価が高く、
そのため変化の余地が少なかった可能性があります。
ただし、少しでも改善したいと思った人は、
「もっと気持ちに寄り添いたい」「ありがとうを言葉で伝えたい」と語っていました。
小さな変化でも、心がけがあれば行動にあらわれるのです。
感謝の気持ちには変化がなかった理由
感謝については、ほとんど変化が見られませんでした。
これは、参加者がもともと高く評価していたことが関係しています。
- 「ありがとう」は日ごろから言っている
- 自分でも感謝の気持ちは強いと思っている
- 他人からの評価もそれに近かった
そのため、驚きやギャップが少なく、「変わりたい」という気持ちにつながりにくかったのです。
ただし、一部の人は「もっと感謝を言葉で表現しよう」と考えていました。
つまり、感謝は変化のきっかけになりにくいだけで、
まったく関係がないというわけではないのです。
性格フィードバックのこれから
自分と他人の評価のズレを知る意味
性格フィードバックは、自分と他人の見え方の違いを教えてくれます。
人は自分の内面をよく知っていると思いがちですが、
他人の目から見た性格は、それとは違っていることがあります。
- 自分では正直なつもりでも、周りにはそう見えていない
- 謙虚なつもりでも、言動がそう感じさせないこともある
- 自分をよく見せようとした結果、逆に本心が伝わらないこともある
このズレに気づくことが、変わるための出発点になります。
性格フィードバックは、自分を他人の目で見直すための大切なきっかけとなるのです。
正直でいたい自分と現実のギャップ
人は「正直でありたい」という理想を持っていますが、実際には難しいこともあります。
この研究では、正直さに関してズレを感じた人が多くいました。
- 嘘はついていないつもりでも、本音を言えないことがある
- 気まずさを避けて、言葉を濁してしまう
- 相手に悪く思われたくない気持ちが働く
このように、理想と現実の間にはギャップがあります。
フィードバックによってそのギャップが見えたとき、
どうすれば理想に近づけるかを考えるようになります。
つまり、正直さは「本当の自分になること」への第一歩なのです。
変化のきっかけとしての驚きの重要性
変化の始まりには、「予想外」の驚きが強い力を持ちます。
この研究でも、スコアに驚いたときに大きな気づきが生まれました。
- 「まさかこんなに低いとは思わなかった」
- 「もっと自分はやさしいと思っていた」
- 「謙虚だと思っていたのに、自分の話ばかりしていたかも」
驚きは、一時的にはショックでも、気づきにつながります。
そして、気づきがあるからこそ、「もっと良くなりたい」と思えるのです。
その意味で、驚きは心を動かすきっかけとなり、
性格の変化につながる貴重な体験となります。
自分を見つめ直すツールとしての可能性
性格フィードバックは、自分を深く知るための道具になり得ます。
人は日常生活の中で、自分の性格をじっくり考える機会が少ないものです。
しかし、この研究のようなフィードバックを受けると、自然と内省が始まります。
- 「なぜこんな評価だったのか」
- 「自分はどう見られているのか」
- 「どんな人間になりたいのか」
これらの問いを考えることが、行動の変化につながります。
つまり、フィードバックは自分自身と向き合う時間をつくってくれるのです。
その意味で、自己理解や成長のための有効な手段といえます。
性格フィードバックは行動まで変えられるか
性格フィードバックによって「変わりたい」と思っても、行動に移すのは簡単ではありません。
この研究では、参加者の多くが変化を望む気持ちを持ちました。
しかし、実際に行動が変わったかまでは調べていません。
- 意識するだけで終わってしまうことがある
- 変化するには、繰り返しの努力が必要
- 行動を定着させる工夫も重要になる
とはいえ、「変わりたい」と思うこと自体が第一歩です。
その後に行動を続ければ、性格も少しずつ変わっていきます。
つまり、フィードバックは行動変化への入り口であり、
そこから先は自分の努力が鍵を握るのです。
最後に
自分の性格を知っているつもりでも、他人の目から見ると違っていることがあります。
性格フィードバックは、そうしたズレに気づくチャンスです。
今回の研究では、正直さや謙虚さについての評価を受け取ったことで、「もっと良くなりたい」という気持ちが生まれた人が多くいました。
とくに、自分の想像と違う結果に驚いたとき、その驚きが行動のきっかけになっていました。自分を変えることは簡単ではありませんが、「気づくこと」からすべては始まります。
もし今の自分にモヤモヤした気持ちがあるなら、一度まわりの人に自分の印象を聞いてみるのもいいかもしれません。
性格フィードバックは、自分をよりよくするヒントになるのです。

ライター 兼 編集長:トキワエイスケ @etokiwa999
株式会社SUNBLAZE代表。子どもの頃、貧困・虐待家庭やいじめ、不登校、中退など社会問題当事者だったため、社会問題を10年間研究し自由国民社より「悪者図鑑」出版。その後も社会問題や悪者が生まれる決定要因(仕事・教育・健康・性格・遺伝・地域など)を在野で研究し、論文3本執筆(うち1本ジャーナル掲載)。社会問題の発生予測を目指している。凸凸凸凹(WAIS-Ⅳ)。