学力と仕事の関係って、本当にあるのでしょうか?
学校でいい成績を取っていた人は、社会に出ても活躍できるのでしょうか。
また、逆に成績がふつうだった人は仕事では不利になってしまうのでしょうか。
この疑問は、多くの学生や社会人が一度は考えたことがあるはずです。
今回紹介する論文『Meta-Analyzing the Relationship Between Grades and Job Performance』は、そんな「学力と仕事のつながり」について、たくさんの研究結果をまとめて分析したものです。
この記事では、この論文の内容をもとに、成績と仕事の関係がどれくらいあるのか、どんなときに役に立つのかを、わかりやすく紹介していきます。
むずかしい言葉は使わずに、高校生や大学生でも理解できるように書いているので、将来の進路や働き方を考えるヒントにしてみてくださいね。
今回も、性格研究者で悪者図鑑著者のトキワ(@etokiwa999)が解説していきます。
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学力と仕事の関係を示す研究とは
学力と仕事の関係に注目が集まる理由
成績が高い人ほど仕事でも活躍するのかは多くの人が気になるテーマです。
なぜなら、学校の成績は「がんばった証」と思われるからです。
しかし、それが仕事の結果にもつながるかは別の話です。
この疑問は、長い間企業と大学で意見が分かれてきました。
たとえば、企業では「成績が良ければ、仕事でもきちんと働く」と考える人が多くいます。
一方で、大学の先生などは「成績だけでは仕事の実力はわからない」と考える人もいます。
このテーマが注目される理由は以下のとおりです。
- 採用のときに成績を参考にする企業が多い
- 就職活動で学生が成績を気にする
- 成績と性格との関係が気になる人がいる
成績と仕事の関係を調べることは、将来の進路選びにも役立つかもしれません。
このように、成績と仕事のつながりは多くの人が知りたいテーマなのです。
「学力と仕事」に対する企業と学者の考え方のちがい
企業と大学では、成績のとらえ方が大きく異なります。
まず、企業は成績を「人の能力のしるし」として見ています。
たとえば、面接のときに成績の良い人を高く評価します。
なぜなら、成績が良い人は「知識があり、まじめで努力家」と考えられるからです。
一方、学者は違う見方をします。
大学の先生などは「成績はあくまで一つの指標にすぎない」と考えます。
その理由として、以下のような意見があります。
- 成績のつけ方は大学によって違う
- 学校の勉強と仕事の内容がちがう
- 社会に出てから必要な力は別にある
したがって、成績だけで人の力を決めるのは危険だとされます。
このように、企業と学者では成績の意味に大きなずれがあります。
成績が高いと仕事ができるのか?
研究によると、成績と仕事の関係は「ややある」と言えます。
今回の研究では、成績と仕事の関係をたくさんのデータから調べました。
結果として、成績と仕事の評価の相関は0.16でした。
これは「少し関係がある」くらいの数値です。
ただし、数字を調整して計算し直すと結果が変わります。
評価のずれやデータの偏りを直すと、相関は0.30以上になることもあります。
つまり、成績が高い人はやや仕事のパフォーマンスも高い傾向があります。
ポイントをまとめると以下の通りです。
- 成績が高い人はある程度仕事もできる
- ただし、それだけでは全てを予測できない
- 調整を加えると関係はもっと強くなる
このように、成績と仕事には完全ではないけれど一定のつながりがあります。
過去の学力と仕事の研究では結果がバラバラだった
これまでの研究では、成績と仕事の関係ははっきりしていませんでした。
これにはいくつかの理由があります。
まず、以前の研究ではデータの数が少なかったのです。
また、評価のずれやデータの偏りが直されていないこともありました。
たとえば、ある研究では「成績と仕事にほとんど関係はない」と出ました。
別の研究では「少し関係がある」という結果でした。
このばらつきには以下のような原因が考えられます。
- 使用した成績の種類がちがう(例:学年別)
- 評価する人がちがう(上司か専門家か)
- 調査した年が古かったり新しかったりする
つまり、調べ方や時代によって結果が大きく変わってしまっていたのです。
今回の研究は、それらの問題点を整理し直して、より正確な結果を出しています。
今回の学力と仕事の研究で明らかになったこと
この研究で、成績は仕事の予測に少し役立つことがわかりました。
過去の研究とはちがい、この研究は大きなデータと正しい方法を使いました。
全体として、成績と仕事には小さな関係があります。
さらに、いくつかの条件によって関係の強さは変わります。
今回の結果からわかったことをまとめると、以下のとおりです。
- 成績と仕事には0.16の正の関係がある
- 条件によっては0.30以上になることもある
- 学歴や仕事の種類、時間の長さが関係を変える
- 評価する人によっても結果が少し変わる
これらのことから、成績は完全ではないけれど、一つの参考材料になるとわかりました。
つまり、成績は仕事の実力を少し予想できる「ヒント」のようなものです。
学力と仕事のつながりを示す数字
全体の学力と仕事の関係は強くはない
全体として見た場合、学力と仕事の関係はあまり強くありません。
今回の研究では、たくさんのデータから平均を取りました。
その結果、成績と仕事の評価との関係は0.16でした。
これは「少しだけ関係がある」と言える数字です。
なぜ強くないかというと、理由はいくつかあります。
たとえば、成績だけでは社会での能力はすべて見えません。
また、学校で学んだことが直接仕事に使えない場合もあります。
さらに、成績のつけ方や仕事の評価方法もバラバラです。
・成績の意味は大学ごとにちがう
・仕事の評価も会社や上司によってちがう
・時間がたつと成績の影響が小さくなることがある
このように、成績と仕事はまったく無関係ではありませんが、強い関係があるとも言いきれません。
調整後の結果では学力と仕事の関係が強まる
評価の誤差などを直すと、成績と仕事の関係はもっと強くなります。
研究では、データの偏りや測り方のずれを直しました。
これを「補正する」と言います。
補正後の数値は0.30以上になりました。
これは「中くらいの関係がある」と言える数字です。
つまり、成績は仕事の成果とそれなりに関係しているのです。
なぜ補正が必要なのかというと、次のような理由があるからです。
- 評価者によって成績や仕事の評価が変わる
- 入社する時点で成績の低い人は除かれている
- 評価の信頼性が低いと関係が弱く見える
こうした問題を直すと、実は成績が思ったよりも仕事とつながっていることがわかりました。
このように、見た目の数値よりも本当はもう少し関係があるのです。
修士の成績はより仕事に結びつく
修士課程の成績は、仕事の成果と強く関係しています。
研究では、学歴によって成績と仕事の関係が変わることもわかりました。
とくに、修士課程を出た人の成績は、相関が0.23〜0.46と高めです。
これは、成績が仕事の結果をよく予測していることを示しています。
なぜ修士の成績が有効かというと、理由は以下の通りです。
- 学習内容がより実践に近い
- 誠実性ややる気が強く出る
- 専門的な力がそのまま仕事に使える
つまり、修士では「ただの暗記」ではなく、「実際に使える力」を評価されているのかもしれません。
このように、修士の成績は、仕事での実力をより反映している可能性が高いです。
博士や医師の成績との関係は小さい
博士号や医師の成績は、仕事の成果とあまり関係がありません。
博士や医師の成績と仕事の関係は、相関で0.07程度とかなり低めです。
これは「ほとんど関係がない」と言ってもよい数字です。
理由はいくつかあります。
まず、博士や医師になるには、そもそも選ばれた人しか入れません。
そのため、成績のばらつきが少なくなってしまいます。
また、研究や医療の仕事は、結果を数字で出しにくい場合もあります。
・仕事の成果がすぐに見えにくい
・協力や経験が大切で、成績とは別の力が求められる
・評価の方法が決まっていないことが多い
このように、高度な専門職では、成績があまり仕事の実力と結びつかないのです。
学力と仕事の関係が出やすい職種とは
教育の仕事では、成績と仕事の関係がもっとも強く出ました。
研究では、職種ごとの違いも調べました。
その結果、教育分野では相関が0.21と高めでした。
ほかにも、ビジネスや軍事では0.14、医療では0.11とやや低めです。
教育の仕事では、学校の知識や教える力が大切です。
そのため、成績がそのまま仕事に出やすいのかもしれません。
逆に、医療や科学のような職種では、経験やチームワークが重視されます。
・教育:知識が中心なので成績が役立つ
・医療や科学:実技や経験が重視される
・軍事やビジネス:他の要素とのバランスが必要
このように、仕事の種類によって成績との関係の強さは大きく変わります。
学力と仕事の関係を左右する条件
卒業から1年以内は成績が役立つ
卒業してすぐの仕事では、成績がもっともよく役立ちます。
研究では、成績と仕事の評価の関係を時間ごとに調べました。
すると、卒業から1年以内の評価では相関が0.23と高めでした。
これは「けっこう役立つ」と言えるレベルの数字です。
どうしてすぐのほうが成績とつながるのかというと、次のような理由が考えられます。
- 学校で学んだことがまだ新しく頭に残っている
- 勉強に必要だった態度ややる気がそのまま仕事に出る
- まだ仕事のやり方に差が出にくいので比較しやすい
時間がたつほど、成績よりも経験や環境の影響が大きくなっていきます。
このように、卒業してすぐの時期は、成績が仕事の結果をよく表しています。
年数がたつと成績との関係が弱くなる
卒業してから時間がたつと、成績と仕事の関係は小さくなります。
研究では、卒業から5年以上たつと、成績との関係は0.05程度になりました。
これは「ほとんど関係がない」と言えるくらいの数字です。
時間がたつことで、仕事の経験や職場の環境が大きく変わっていきます。
すると、学生時代の成績の意味がだんだん小さくなるのです。
その理由としては、以下のようなものがあります。
- 実際の仕事で学ぶことが増えていく
- 成績に表れない力(人間関係や判断力など)が必要になる
- 働く環境が人によって大きくちがう
このように、成績は時間とともに仕事の実力をあらわす指標としての力を失っていきます。
上司による評価のほうが予測しやすい
上司がつけた仕事の評価は、成績との関係がわかりやすいです。
研究では、仕事の評価者によって結果が変わることがわかりました。
特に、上司による評価では相関が0.16とやや高くなっています。
一方、専門家による評価では0.11と少し低くなっています。
これは、上司が部下の行動を日ごろからよく見ているからです。
また、評価の基準も会社ごとにある程度決まっていることが多いです。
・上司は毎日仕事ぶりを見ている
・評価の対象がチームへの貢献や責任感など幅広い
・専門家の評価は一時的で限定的になりやすい
このように、仕事の評価のつけ方や評価者のちがいによって、成績との関係の出方が変わります。
教育分野では成績との関係が強い
教育の仕事では、成績が仕事にしっかり結びつきます。
研究では、いくつかの職種ごとの分析も行われました。
その中でも、教育関係の仕事では相関が0.21と高めでした。
この理由は、教育の仕事に必要な力と学校の成績に共通点が多いからです。
たとえば、次のような点です。
- 知識を覚えて説明する力が必要
- 授業の準備など、計画性が求められる
- 子どもに見本を見せる立場である
教育では「まじめさ」や「言葉の使い方」などが重視されます。
それらは成績の良さとも関係しやすい要素です。
このように、教育の仕事では、成績がその人の働きぶりをよく示す手がかりになるのです。
昔の研究では成績の影響が大きかった
古い時代の研究では、成績が仕事と強く関係していました。
調査の中では、1960年以前の研究では相関が0.23でした。
それに対して、1961年以降では0.14と下がっていました。
時代によって、成績の意味や社会の価値観が変わったことが理由と考えられます。
昔は、成績が唯一の評価軸であったことも関係しています。
・昔は学歴や点数が重視されやすかった
・今は性格や人柄も大事にされるようになってきた
・仕事の内容や求められる力が変わってきた
このように、成績と仕事の関係は時代によって変わってきています。
今の社会では、成績だけに頼るのは難しくなっているとも言えるでしょう。
学力と仕事の関係から見える未来
成績が仕事の全てではない
研究から、成績だけで仕事の実力は決まらないことがわかりました。
たしかに、成績と仕事には小さな関係があります。
しかし、それは仕事に必要な力の一部しか表していません。
仕事には、人との関わり方や工夫する力など、いろいろな力が求められます。
たとえば、次のような力は成績ではわかりません。
- チームでうまく働く力
- むずかしい問題に立ち向かう力
- 思いやりや責任感
また、職場の環境やチャンスにも左右されます。
だから、成績が高いからといって、必ずしも仕事ができるわけではありません。
このように、成績は大切な情報のひとつですが、それだけで人の力を決めることはできません。
誠実性などの性格特性も関係するかも
今後は性格のちがいが仕事の力に関わってくると考えられます。
たとえば、**誠実性(まじめに計画的に取りくむ性格)**は、仕事でもよい影響を与えます。
これは「やりとげる力」や「失敗をおそれず努力する気持ち」に近いものです。
成績が高い人は、このような性格を持っている可能性もあります。
そのため、成績と仕事の関係には、性格がかくれた要因としてあるかもしれません。
考えられる性格特性には、次のようなものがあります。
- 誠実性(コツコツ努力する)
- 協調性(まわりと仲良くできる)
- 情動性(気持ちの変化が大きいかどうか)
これらの性格をあわせて見ると、成績よりももっと仕事の力をよくわかるかもしれません。
このように、成績だけでなく性格のような内面のちがいにも注目する必要があります。
成績があらわす中身をもっと知る必要
成績がどんな力をあらわしているのかを理解することが大切です。
単に「テストができた」だけではなく、成績にはいろいろな意味がふくまれています。
それが仕事にどう関係しているのかを知ることが今後のカギになります。
たとえば、成績にふくまれる力はこんなものがあります。
- 知識の多さ
- 自分で学ぶ力
- 締切やルールを守る力
- 問題を考えて解く力
これらのうち、どれが仕事と関係しているのかをくわしく調べることで、より正確に人を見られるようになります。
つまり、成績の「中身」に目を向けることで、仕事との関係をもっと深く理解できます。
他の採用方法との組み合わせが大事
成績だけではなく、他の方法と組み合わせて人を評価することが大切です。
たとえば、性格検査や面接、仕事の模擬体験などがあります。
これらは、それぞれちがう力を見つけることができます。
研究では、成績の予測力は中くらいとされています。
いっぽうで、認知テストや構造化された面接の方がもっと高い相関が出ています。
それぞれの方法の特徴は以下のとおりです。
- 成績:学習の成果やまじめさが見える
- 面接:話し方や考え方、人柄が見える
- 性格検査:行動のくせや考え方が見える
このように、ひとつの方法だけではなく、いくつかの視点を組み合わせることで、よりよい人材選びができます。
成績の見方を工夫すればもっと使える
成績の使い方を工夫すれば、今よりもっと役に立つかもしれません。
たとえば、成績をそのまま比べるのではなく、以下のような工夫が考えられます。
- 学年ごとの成績を分けて見る
- 専門科目だけの成績を見る
- 大学のレベルを考えて調整する
研究では、1・2年と3・4年の成績を分けて使う方が予測力が高いとされていました。
また、専攻している分野の成績の方が、全体の成績よりも役に立つこともわかっています。
このように、成績の「どの部分を見るか」によって、より正確に仕事との関係がわかるようになります。
最後に
この記事では、「学力と仕事の関係」について、信頼できる研究をもとに紹介しました。
その結果、成績は仕事の実力を少しだけ予測できることがわかりました。
とくに、卒業してすぐの仕事や教育の仕事では、成績が役に立つ場面が多いようです。
でも、時間がたつと成績の影響は弱くなり、経験や性格のほうが大事になることもあります。
つまり、成績はたしかに意味があるけれど、それだけで人の力を決めることはできません。
自分の性格や得意なこと、周りとの関わり方も大切にしていくことが大事です。
これから社会に出ていくみなさんにとって、この記事が「成績との向き合い方」を考えるヒントになればうれしいです。
がんばってきた勉強の成果も、自分らしい働き方も、どちらも大切にしていきましょう。

ライター 兼 編集長:トキワエイスケ @etokiwa999
株式会社SUNBLAZE代表。子どもの頃、貧困・虐待家庭やいじめ、不登校、中退など社会問題当事者だったため、社会問題を10年間研究し自由国民社より「悪者図鑑」出版。その後も社会問題や悪者が生まれる決定要因(仕事・教育・健康・性格・遺伝・地域など)を在野で研究しており、社会問題の発生予測を目指している。凸凸凸凹(WAIS-Ⅳ)。