ワークブック(冊子)を使って性格を伸ばすことができると聞いたら、少し驚くかもしれません。
今回紹介するのは、短期間で謙虚さを高めることを目的に作られた自己学習型の冊子です。
論文「Beta-Testing of an Intervention Workbook to Promote Humility」では、大学生72人を対象に、その効果が調べられました。
謙虚さとは、自分を過大にも過小にも評価せず、他人や物事の価値を正しく認められる性格特性です。
手軽に自宅で取り組める方法なので、学生生活や仕事の合間にも実践できます。
あなたも、自分の心の成長を感じられる体験をしてみません。
今回も、性格研究者で悪者図鑑著者のトキワ(@etokiwa999)が解説していきます。
※以下のHEXACO-JP診断は個人向けになります。サンブレイズテストは法人向けになります。


ワークブックの概要と目的
謙虚さを高めるための背景
謙虚さは人間関係や学業、仕事の質に良い影響を与えます。
この研究では、性格特性の一つである謙虚さに注目しました。
謙虚さとは、自分の大きさを誇張せずに現実的に理解することです。
さらに、他人や物事の価値を認める態度も含まれます。
研究では、謙虚さが高い人は感情の安定や忍耐力も高いと示されています。
今回の介入は、短期間でこの特性を伸ばす方法を探るために行われました。
方法として、自己学習型の冊子を使いました。
この冊子は「ワークブック」と呼ばれ、家で取り組めます。
過去の研究でも、謙虚さを意識した行動は感情面の改善につながる例がありました。
今回の試みでは、その効果を数値で検証しています。
- 謙虚さが高まると期待される理由
- 自宅でできる取り組みの利点
- 感情面にも影響する可能性
まとめると、この研究は謙虚さの成長を実証し、生活に応用できる方法を示しています。
研究の対象者と期間
この研究には72人の大学生が参加しました。
対象者は心理学を学ぶ学生で、無作為に3つのグループに分かれました。
1つは「謙虚さワークブック」を使う群です。
もう1つは「気分を良くするワークブック」を使う群です。
残りは何もしない統制群です。
実験は2週間で行われました。
開始前に全員が質問票に答えました。
期間終了後にもう一度同じ質問票に答えました。
測定は性格特性と感情の両方を含みます。
人数は各群24人ずつで均等でした。
統計的な差がないように事前の条件をそろえています。
- 群分けは無作為
- 実施期間は2週間
- 測定は2回
まとめると、短期間で効果を比較できる設計になっていました。
測定に使われた性格特性の項目
謙虚さの測定には特定の質問項目が使われました。
これは性格特性を評価する尺度です。
謙虚さは6つの要素で評価されます(参考「Character Strengths and Virtues」462p)。
- 自分の能力や成果を正確に(過小評価せず)把握している
- 自分の誤りや不完全さ、知識の不足や限界を認められる(しばしば「より高い存在」への言及を伴う)
- 新しいアイデアや反対意見、助言を受け入れる姿勢がある
- 自分の能力や成果を適切な文脈で捉え、過度に誇張しない
- 自己への執着が比較的低い、または「自分を忘れる」ことができる
- あらゆるものの価値や、多様な人・物が世界に貢献するさまざまな方法を評価できる
この質問により、数値として変化を確認できます。
さらに、感情面はポジティブ感情とネガティブ感情の両方を測定しました。
こうした複数の視点で効果を分析しています。
まとめると、性格面と感情面を同時に評価できる方法を採用しました。
期待される効果と仮説
研究者は特定の仮説を持っていました。
謙虚さワークブックを使う人は、他よりも謙虚さが上がると予想しました。
また、感情面でもネガティブ感情が減ると考えました。
ポジティブ感情を高めるワークブックは、気分改善には有効でも謙虚さは上がらないと予測しました。
統制群はどちらの変化も起きないと見込みました。
この仮説は過去の研究結果に基づいています。
性格特性は短期間でも変化する可能性があります。
特に自覚を促す内容は効果が高いとされます。
- 謙虚さ向上の見込み
- 感情面の改善の予測
- 群ごとの違いの想定
まとめると、研究は性格と感情に異なる影響を予測していました。
他の方法との違い
今回の方法は低コストで自己実施可能です。
他の介入は対面や長期プログラムが多く、時間や費用がかかります。
このワークブックは自宅で行え、全体で8時間程度です。
電子メールで配布し、紙や対面を必要としません。
また、短期間で効果を検証できる設計です。
従来は感情改善に焦点を当てる方法が多く、性格特性への直接介入は少数でした。
性格と感情の両面を同時に見る点も特徴です。
- 自宅学習型で手軽
- 性格特性に直接アプローチ
- 短期間で検証可能
まとめると、実用性と効果測定の両立が図られています。
ワークブックの構成内容
PROVEの5つのステップ紹介
謙虚さワークブックは5つの段階で進みます。
名称はPROVEで、それぞれの頭文字に意味があります。
- P – Pick a time when you were not humble
- 自分が謙虚でなかった場面を特定して振り返る。
- R – Remember your abilities within the big picture
- 自分の能力を「全体像」の中で再評価し、相対化する。
- O – Open yourself
- 自己を開放し、他者や新しい視点に受容的になる。
- V – Value all things
- 物事や他者の価値を積極的に認める態度を持つ。
- E – Examine limitations
- 自分の限界を受け入れ、客観的に見つめ直す。
これらは順番に取り組むことで効果が高まります。
経験を振り返ることで現状を理解します。
視点を広げることで自己評価の偏りを減らします。
他者の意見や価値を認める姿勢が育まれます。
最後に、自分の限界を受け入れることが安定した態度につながります。
まとめると、この5つの流れは謙虚さを実践に結びつけます。
P:謙虚でなかった経験を振り返る方法
最初の段階は過去の行動を振り返ることです。
自分が謙虚でなかった場面を具体的に思い出します。
そのときの感情や状況を書き出します。
また、その行動が他者や自分に与えた影響を考えます。
なぜそのように振る舞ったのかも分析します。
この作業は反省だけでなく理解を深めるために行います。
現実的な自己評価を得るきっかけにもなります。
- 具体的な場面の特定
- 感情と行動の整理
- 原因の分析
まとめると、過去の経験から学び、改善の出発点を作ります。
R:自分の能力を正しく位置づける方法
次は自分の能力を大きな枠組みで見直します。
能力を高く評価しすぎず、過小評価もしません。
自分の強みと弱みを両方確認します。
比較対象は一部の人ではなく広い範囲にします。
社会や集団の中での自分の立ち位置を考えます。
この方法により、現実的な自己理解が進みます。
また、過信や劣等感の両方を避けられます。
- 強みと弱みの把握
- 幅広い視点での比較
- 過信や卑下の回避
まとめると、正しい自己評価が謙虚さの基盤となります。
OV:他者の意見や価値を受け入れる姿勢
開かれた心は謙虚さの重要な要素です。
自分と異なる意見を受け入れる練習をします。
反対意見を排除せず、まずは理解しようとします。
助言を受けたら感謝の気持ちを持ちます。
この態度は人間関係を円滑にします。
また、自分の考えの偏りに気づくきっかけになります。
価値観の多様性を学ぶことも目的です。
- 異なる意見への理解
- 助言への感謝
- 多様な価値観の尊重
まとめると、他者への敬意が謙虚さを強めます。
E:自分の限界を受け入れる練習
最後の段階は限界の認識です。
自分にできないことや知識の不足を受け入れます。
無理に完璧を目指さず、助けを求めることも学びます。
限界を認めることで無駄な衝突を避けられます。
また、他者と協力する意識が高まります。
これは弱さではなく現実を受け入れる力です。
- 知識や能力の不足の受容
- 助けを求める姿勢
- 協力意識の向上
まとめると、限界を知ることは成長への第一歩です。
ワークブックの実施方法
自宅での学習スケジュール
このワークブックは自宅で計画的に行います。
合計で8時間程度の学習時間が必要です。
1日の負担を減らすため、複数日に分けます。
例えば、週に4回、1回2時間のペースです。
時間帯は集中できる静かな環境を選びます。
課題ごとにメモや感想を残します。
進行状況を可視化することで達成感が生まれます。
また、無理のない計画が継続を支えます。
- 合計8時間を分割
- 集中できる環境の確保
- 記録の活用
まとめると、生活に合わせた計画が成功の鍵です。
電子メールでの受け取りと返送
教材の受け取りと提出は電子メールで行います。
参加者は最初に登録フォームで申し込みます。
その後、ワークブックがメールで送られます。
記入や作業は自宅で行い、完了後に返送します。
印刷の必要はなく、パソコンやスマートフォンで可能です。
この方法は場所を選ばず、時間の制約も少ないです。
さらに、返送日を決めておくと遅れを防げます。
- メール配信
- 自宅で作業
- 電子返送
まとめると、オンライン形式が柔軟な実施を可能にします。
実施にかかるおおよその時間
全体の所要時間は約8時間です。
1回ごとの作業時間は自由に調整できます。
短く区切っても効果は保たれます。
集中力が続く時間を基準にすると良いです。
無理に詰め込むと理解が浅くなります。
時間配分は参加者ごとに異なります。
ただし、2週間以内に終えることが推奨されます。
- 全体時間の目安
- 個別の調整可能
- 推奨期間の設定
まとめると、時間の管理は自分に合わせて行えます。
期間中の取り組み方の工夫
効果を高めるには工夫が必要です。
作業は集中できる時間帯に行います。
途中で中断されない場所を選びます。
課題に取り組む前に目的を思い出します。
必要に応じて前回の記録を振り返ります。
進行を確認するチェックリストを使います。
モチベーション維持のためご褒美を設定します。
- 集中時間の確保
- 中断の少ない環境
- モチベーション維持策
まとめると、環境と習慣の工夫が継続を助けます。
記録を残す重要性
記録は学びを深めるために重要です。
取り組んだ内容を文章やメモで残します。
感情や考えの変化も記録します。
記録を見返すことで成長が実感できます。
また、振り返りが次の課題に役立ちます。
数値的な変化だけでなく、主観的な変化も大切です。
- 内容の記録
- 感情の変化の記録
- 振り返りの活用
まとめると、記録は自己理解を深める手段になります。
ワークブックの効果
謙虚さが向上した結果
謙虚さワークブックを使った人は特性が高まりました。
測定では、事前より事後の得点が上昇しました。
統計的には境界的な差で、p値は0.051でした。
しかし、変化の傾向は明確に見られました。
この変化は他のグループでは見られませんでした。
謙虚さは短期間でも伸びる可能性があります。
特に、自分を客観的に見直す作業が効果的でした。
- 他群には見られない上昇
- 境界的だが意味のある変化
- 自己反省が中心の内容
まとめると、短期介入でも性格特性に影響します。
ネガティブ感情が下がった理由
ネガティブ感情は謙虚さ群で有意に下がりました。
数値的にはp値が0.01未満で有意な差でした。
この変化は、自己中心性を減らす効果が関係します。
他者や状況を肯定的に見る姿勢が増えました。
結果として、否定的な感情の頻度が減りました。
ポジティブ群でも同様の傾向が見られました。
しかし、統制群には変化がありませんでした。
- 謙虚さと感情の関連
- 否定感情の減少
- 他群との比較
まとめると、価値観の変化が感情改善を促しました。
ポジティブ感情への影響
ポジティブ感情の変化は大きくありませんでした。
謙虚さ群でも顕著な増加は確認されません。
ポジティブ群も同様の傾向でした。
しかし、ネガティブ感情の減少は見られました。
これは、ポジティブ感情より否定感情の変化が先に起きる可能性を示します。
また、性格特性の変化は感情に間接的な影響を与えます。
- 顕著な増加なし
- 否定感情の改善が先行
- 間接的な影響の可能性
まとめると、感情の向上は段階的に進むと考えられます。
効果が出たグループと出なかったグループ
変化は介入内容によって異なりました。
謙虚さ群は特性と感情の両方に変化がありました。
ポジティブ群は感情のみ改善しました。
統制群には変化が見られませんでした。
これは介入内容が目的に直結しているかが重要であることを示します。
- 謙虚さ群:特性+感情改善
- ポジティブ群:感情のみ改善
- 統制群:変化なし
まとめると、目的に合った内容が最大の効果を生みます。
統計的な結果の意味
統計結果は効果の確かさを示す指標です。
p値が小さいほど偶然である可能性が低くなります。
謙虚さの変化はp=0.051で境界的な有意差です。
ネガティブ感情はp<0.01で明確に有意です。
この差は実際の効果の大きさを理解する手がかりです。
また、短期間でも一定の変化が可能である証拠です。
- p値の意味
- 有意差の解釈
- 短期介入の可能性
まとめると、数値は結果の信頼性を支える重要な情報です。
最後に
今回紹介したワークブックは、短期間で性格特性の一つである謙虚さを伸ばすことができる方法です。
自宅で取り組める内容なので、学校やアルバイトの合間にも続けやすいのが特徴です。
5つのステップを通して、自分を正しく理解し、他人や物事の価値を認める姿勢を身につけられます。
研究結果では、実施した人は謙虚さの得点が上がり、ネガティブな感情が減りました。
これは、日常の中で自分を振り返る時間を持つことが、心の安定や人間関係の質を高めることにつながることを示しています。
もちろん、変化は一度で終わりではなく、繰り返し取り組むことで定着しやすくなります。
手軽さと効果の両方を持つこの方法は、これからの自分をより良くしたいと考える人にぴったりです。
日常に小さな習慣として取り入れ、性格も感情も前向きに変えていきましょう。

ライター 兼 編集長:トキワエイスケ @etokiwa999
株式会社SUNBLAZE代表。子どもの頃、貧困・虐待家庭やいじめ、不登校、中退など社会問題当事者だったため、社会問題を10年間研究し自由国民社より「悪者図鑑」出版。その後も社会問題や悪者が生まれる決定要因(仕事・教育・健康・性格・遺伝・地域など)を在野で研究し、論文3本執筆(うち1本ジャーナル掲載)。社会問題の発生予測を目指している。凸凸凸凹(WAIS-Ⅳ)。