EQの遺伝について考えたことはありますか?
EQとは「感情をうまく扱う力」のことで、 人間関係や気持ちの整理に関わるとても大事な力です。
よく「EQは育てられる」と聞きますが、 本当に努力だけで身につくものなのでしょうか?
この記事では、「A Behavioral Genetic Study of Trait Emotional Intelligence」という研究論文をもとに、 EQがどれくらい遺伝によって決まるのかをわかりやすく紹介します。
高校生やその親、双子などを対象にした科学的な調査で、 EQと性格のつながりや、家族の中での似かたなどが明らかになっています。
「EQは生まれつきなのか、それとも育てられるのか?」 そのヒントがこの研究にはつまっています。
むずかしい言葉は使わず、若い人でも読みやすいようにまとめているので、 気軽に読んでみてください。
今回も、性格研究者で悪者図鑑著者のトキワ(@etokiwa999)が解説していきます。
※以下のHEXACO-JP診断は個人向けになります。サンブレイズテストは法人向けになります。


EQの遺伝はどれくらい影響するのか?
EQと性格特性はどんな関係があるの?
まずEQは性格特性の一つと考えられています。
つまり、心のやわらかさや人との関わり方などが関係します。
もともとEQは感情をうまく使う力とされていました。
ですが最近では、性格の中の一部と見る考え方が主流です。
研究では、EQと外向性・誠実性・協調性・開放性が関連しています。
たとえば、他人の気持ちに気づきやすい人は共感力が高いです。
こうした力は性格と深く関係しています。
また、EQは頭の良さとは別のものです。
心の動きを感じる力や、自分を落ち着かせる力が中心です。
これは知識や学力ではなく、日常でのふるまいに表れます。
このように、EQは性格の中にある複数の特性が合わさった力です。
- 他人への共感
- 自分の感情のコントロール
- 前向きな気持ちの保ち方
まとめると、EQは性格と深く結びついた力であり、 気持ちの動きや人との関係をつくる土台になっています。
EQの得点は親と似ているの?
親のEQと子どものEQにはある程度の似た傾向があります。
研究では、親子のEQの点数に弱い相関が見られました。
とくに母親との間で少し高い相関があったようです。
これは家族で過ごす時間や話す機会が関係しているかもしれません。
ただし、その影響はそこまで強くありませんでした。
相関とは、ある数字の動きが似ていることを表す言葉です。
たとえば、母親の点が高ければ子どもも高い、というような関係です。
この研究では、親子のEQの相関は最大でも0.22程度でした。
つまり、親の影響はあるけれども、 それだけでEQの高さが決まるわけではありません。
- お母さんとの相関:約0.22
- お父さんとの相関:約0.14
- 両親の平均から子への予測:約0.32
まとめると、親子の間でEQの点はやや似ていますが、 それは一部にすぎず、他の要因も大きく関わっています。
EQの高さはどのくらい遺伝で決まる?
EQの約4割は遺伝で説明できることがわかりました。
これは双子の研究から得られた結果です。
同じ顔を持つ一卵性双子と、普通の兄弟に近い二卵性双子の違いを見ました。
その結果、一卵性の方がずっとEQが似ていました。
この違いから、遺伝がどれくらい影響しているかを調べたのです。
具体的には、次のような数字が出ました。
- 下位の要素ごとの遺伝率:約0.42
- 大きな因子での遺伝率:約0.44
- EQ全体の遺伝率:約0.42
この数字は、誠実性や情動性などの性格特性と近い値です。
つまり、EQは「性格の一部」として自然に考えられるのです。
まとめると、EQの約半分近くは生まれつき決まっていると考えられます。
家族の中でEQが似る理由とは?
家族のEQが似るのは、主に遺伝と環境の影響です。
とくに親と同じ家に住んでいる子どもは、日々の関わり方からも影響を受けます。
ですが、研究では「共有環境≒家庭環境」はあまり関係ないとされました。
つまり、家族全員が同じように暮らしていても、EQは同じになりません。
その代わり、「個人が経験する特別なこと」(非共有環境)が大きく影響します。
たとえば、
- 学校での友人関係
- 自分だけの成功体験や失敗体験
- 他人との感情的なやりとり
こうした一人ひとりの出来事が、EQの成長に関わっているのです。
まとめると、家族のEQが似るのは一部が遺伝のためであり、 それ以外はその人だけの体験が大きな意味を持っています。
遺伝の影響はどの年代でも同じ?
EQに対する遺伝の影響は年代によって変わる可能性があります。
今回の研究では、若者や大人が対象でした。
特に高校生や成人が多く含まれていました。
年齢によって感情の扱い方は変化するため、 遺伝の影響がどの年代にも同じとは限りません。
また、親と子では成長段階が違います。
そのため、親子のEQを比べたとき、影響がうまく見えないこともあります。
それに比べて、同じ年齢の双子で比べると正確な違いが見えやすいです。
今後は子どもや高齢者など、幅広い年代での研究も必要です。
まとめると、今のところ遺伝の影響は成人を中心に明らかになっており、 他の年代でも同じかどうかは、今後の研究に期待がかかります。
EQの遺伝を家族研究から読み解く
高校生と親のEQを比べた研究とは?
親と高校生のEQを比べる研究が行われました。
この研究では、133人の高校生とその親が対象でした。
対象となった高校生は15歳から19歳で、 そのうち母親122人、父親70人のデータが集まりました。
参加者は、EQを測るための質問紙に答えました。
この質問紙は、EQを15の要素と4つの大きな分類、 そして全体の得点に分けて評価するものでした。
親と子が同じ質問紙に答え、 その結果をもとに似ているかどうかを調べました。
親子間でどのくらい得点が似ているか、 統計的な方法で比較されました。
とくに、両親の平均的な得点と子どもの得点を見比べる方法が使われました。
まとめると、この研究は実際の家族を使って、 EQがどれくらい親から子に似るのかを科学的に調べたものでした。
親のEQが高いと子も高くなる?
親のEQが高いと、子どものEQも高くなる傾向があります。
ただし、その関係は思ったよりも強くありません。
たとえば、親のEQがとても高い家庭でも、 子どもが必ずしも同じように高いとは限りません。
研究では、親と子の間のEQの相関は中くらいか、それ以下でした。
とくに、お父さんと子どもでは相関が0.14、 お母さんと子どもでは0.22と報告されています。
両親の平均得点を使った場合でも、子どものEQの予測は0.32でした。
つまり、EQが親からそのまま引き継がれるとは限らないのです。
このことから、家庭の環境や親のふるまいよりも、 子ども自身の体験や感じ方が大きな影響を持っていると考えられます。
まとめると、親がEQが高くても、それだけで子のEQも高くなるとは限りません。
お父さんと子どものEQの関係
お父さんと子どものEQの関係は弱めでした。
研究では、父親と子どもの間にあるEQの相関は約0.14でした。
これは、数字で見るとあまり強いつながりではありません。
とくに、EQの中でも「感情のコントロール」や「人間関係の力」などで、 父と子の得点があまり一致しない傾向がありました。
父親のEQが子に与える影響は一部には見られますが、 すべての面で影響があるわけではありません。
また、父親自身のEQのばらつきも、 子どもとの比較を難しくしている要因の一つです。
まとめると、お父さんと子どものEQの関係は弱く、 特定の場面でしか似ていない可能性があります。
お母さんと子どものEQの関係
お母さんと子どものEQは比較的強くつながっていました。
この研究では、母親と子どものEQの相関は約0.22と報告されました。
これは父親よりもやや高い数字です。
とくに「共感性」や「人間関係の力」の項目で、 母と子の得点が似ている傾向が見られました。
共有環境(≒家庭環境)の影響は少なく、遺伝の影響と考えると、父親より母親からの遺伝の影響が強いのかもしれません。
ただし、それでも強い影響とはいえず、 他の要因も大きく関わっていると考えられます。
まとめると、お母さんと子どものEQには中くらいの関係があり、 特定の感情に関わる力で似やすい傾向があります。
親子で似やすいEQの特徴とは?
親子で特に似やすいEQの特徴もいくつかあります。
この研究では、EQの中でも「自己評価」や「楽観性」などが、 親子で比較的似ていたことがわかりました。
たとえば、次のような要素です。
- 自分をどう思っているか(自己肯定感)
- 前向きな気持ちを持てるか(楽観性)
- 幸せを感じやすいか(幸福感)
これらの要素では、母親や父親の得点が高ければ、 子どもも同じように高い場合が多く見られました。
反対に、「人間関係」や「感情の表現」などは、 あまり親と一致しない傾向がありました。
つまり、外に向けた行動よりも、 内面の感じ方の方が親に影響されやすいようです。
まとめると、EQの中でも心の中に関わる力は、 親子で似やすい特徴だといえます。
EQの遺伝を双子研究で見てみよう
一卵性双子と二卵性双子の違いは?
EQの遺伝を調べるには双子の比較がとても役立ちます。
一卵性双子はまったく同じ遺伝子を持っています。
一方で、二卵性双子はふつうの兄弟と同じで、遺伝子の半分だけが同じです。
この違いを利用して、性格や感情の力にどのくらい遺伝が関係しているかを調べられます。
たとえば、もし一卵性双子の方が二卵性よりもEQがよく似ていれば、 それは遺伝の影響が大きいことを意味します。
研究では、632人の成人の双子が参加し、 一卵性双子は213組、二卵性双子は103組でした。
この人たちはEQに関する質問に答え、 それぞれの似かたを比べました。
まとめると、双子の違いを見ることで、 EQがどれくらい遺伝で決まるかがわかります。
双子のEQの似かたからわかること
一卵性の双子は、二卵性の双子よりもEQがよく似ていました。
たとえば、EQ全体の相関は一卵性で約0.41、 二卵性では約0.05しかありませんでした。
これはとても大きな違いです。
このような結果は、EQが遺伝の影響を強く受けていることを示しています。
EQの下位の特徴ごとにも同じ傾向が見られました。
特に「社会的な気づき」や「自信の強さ」などは、 一卵性双子の間でとてもよく似ていました。
これにより、EQが「学んだもの」だけでなく、 生まれ持った性格とも関係しているとわかります。
まとめると、双子の似かたの違いは、 EQが遺伝から強く影響を受けている証拠になります。
EQに強く影響するのは何か?
EQには、遺伝と同時に環境も関係しています。
ただし、「共通の家庭環境(≒共有環境)」はあまり大きな影響を持ちませんでした。
その代わり、「個人が体験する環境(非共有環境)」の方が重要でした。
たとえば、
- 学校での友人関係
- 自分だけの成功や失敗体験
- 特定の感情を学ぶ場面
こうした一人ひとりの違いがEQの成長につながっていました。
また、EQの中でも特に「自己調整」や「人づきあいの力」は、 遺伝の影響が大きいとされていました。
まとめると、EQは生まれつきの要素と、 一人ひとりの経験の両方によって育ちます。
環境と遺伝はどっちが大きい?
EQには遺伝と環境の両方が大きく関わっています。
双子研究では、EQの遺伝率は約42%とわかりました。
つまり、EQの半分近くは生まれつき決まっているのです。
残りの部分は「非共有環境」と呼ばれる、 兄弟でも異なる個人の体験から来る影響です。
意外なことに、家庭内での同じ育て方(共有環境)は、 EQにほとんど影響していませんでした。
このことから、EQを育てるには、 その人自身の経験がとても大切だといえます。
まとめると、EQは遺伝と環境の両方に支えられていますが、 家族の育て方よりも個人の経験が大きなカギになります。
兄弟でもEQはあまり似ないの?
兄弟でもEQがあまり似ないことはよくあります。
これは、家庭内の環境がEQに大きな影響を与えていないからです。
双子でさえも、二卵性双子はそこまで似ていませんでした。
たとえば、EQ全体の相関はわずか0.05と、とても低い数値でした。
このことから、普通の兄弟や姉妹の間で、 EQの得点があまり似ないのは当然といえます。
つまり、兄弟であっても、 その人がどう感じてどう育ってきたかによってEQは変わります。
自分だけの人間関係や経験がEQをつくるのです。
まとめると、兄弟でEQが違うのは珍しくなく、 それぞれの経験がEQに表れていると考えられます。
EQの遺伝が意味することとは?
EQは訓練で高められるの?
まずEQはある程度遺伝で決まっていますが、変えることもできます。
研究では、EQの約40%が遺伝の影響を受けていると示されました。
つまり、残りの60%は環境や経験によって変わる部分です。
感情のコントロールや共感力は、生まれつきの性格だけでなく、 その後の人間関係や学びで高められます。
たとえば、
- 感情を言葉にする練習
- 他人の気持ちを考える習慣
- 前向きな考え方の練習
こうした工夫を続けることで、EQは少しずつ育ちます。
ただし、すぐに大きく変わるわけではありません。
まとめると、EQは完全に変えるのはむずかしいですが、 日々の行動で少しずつ高めることは可能です。
短期間のEQトレーニングの限界
EQは短い期間の練習で急に高まるものではありません。
EQは性格特性に近い力なので、変化には時間がかかります。
短期の講座や研修を受けたとしても、 その効果は長く続かないことが多いです。
研究でも、EQが長く安定していることが示されました。
特に、自己評価や前向きな考え方などは、 一度身についたら変わりにくい傾向があります。
これは悪いことではなく、 心の安定につながる大切な特徴です。
だからこそ、EQを高めるには、 時間をかけてじっくり育てる姿勢が必要です。
まとめると、EQを高めたいなら、 短期間の方法に頼らず、継続することが大切です。
成長とともにEQは変わるのか?
EQは成長する中で少しずつ変化することがあります。
子どもから大人になるにつれて、 感情のコントロールや他人との関わり方が変わるからです。
たとえば、友だちとの経験や学校生活などで、 他人の気持ちに気づく力が育っていきます。
研究でも、EQはある程度の安定性があるものの、 人生の中での経験が影響することが示されました。
特に若いうちは環境の影響が強く、 新しい体験によってEQが変わる可能性があります。
これは、大人になってからも同じです。
まとめると、EQは性格に近いけれど、 成長や経験によって少しずつ変わる可能性を持っています。
遺伝でも変えられる部分はある?
たとえ遺伝の影響があっても、変化できる部分はあります。
EQの約半分は遺伝で説明できますが、 残りは環境や体験で決まるという結果でした。
つまり、生まれつきがすべてではないということです。
たとえば、他人にやさしくしたり、 自分の気持ちに気づく練習をしたりすることで、 少しずつEQを伸ばせます。
性格のように変えにくい面はあっても、 意識的に行動を変えることで効果が出る場合があります。
また、時間をかければ、その変化は定着しやすくなります。
まとめると、遺伝の影響があっても、 努力次第で変えられる部分はたくさんあります。
EQを育てるにはどうしたらいい?
EQを育てるには、毎日の小さな行動が大切です。
難しいことをしなくても、日々のふるまいの中で育てられます。
たとえば、
- 自分の気持ちを言葉にしてみる
- 相手の話を最後まで聞いてみる
- うれしいことや悲しいことを日記に書いてみる
こうしたことを習慣にするだけでも、 気持ちへの理解が深まり、EQが高まりやすくなります。
また、人との関係を大切にすることも効果的です。
共感したり、やさしい言葉をかけたりすることで、 自分と相手のEQのどちらにも良い影響があります。
まとめると、EQは特別なことをしなくても、 毎日のふるまいで少しずつ育てていくことができます。
最後に
EQは性格の一部として、遺伝と関係があることがわかりました。
約4割は生まれつきの影響で決まり、 残りは環境や経験によって変わります。
特に双子の研究からは、EQが家族よりも個人の体験に左右されることが明らかでした。
だからこそ、自分らしい経験やふるまいがとても大切です。
短いトレーニングでは大きく変わりませんが、 日々の行動や人との関わりの中で少しずつ育てることができます。
EQが高いと、友だちとの関係がうまくいったり、気持ちの整理がしやすくなったりします。
今の自分の感情を知ることが、EQを高める第一歩になります。
遺伝のことを知ったうえで、自分なりのEQを育てていきましょう。

ライター 兼 編集長:トキワエイスケ @etokiwa999
株式会社SUNBLAZE代表。子どもの頃、貧困・虐待家庭やいじめ、不登校、中退など社会問題当事者だったため、社会問題を10年間研究し自由国民社より「悪者図鑑」出版。その後も社会問題や悪者が生まれる決定要因(仕事・教育・健康・性格・遺伝・地域など)を在野で研究しており、社会問題の発生予測を目指している。凸凸凸凹(WAIS-Ⅳ)。