不利な育ちって、やっぱり将来は不利なのかな、と感じたことはありませんか。
テストの点が悪いときや、進学の話題が出たときに、「家の環境が違うから仕方ない」と思ってしまう人もいるでしょう。友達が塾に通っていたり、親が大学卒だったりすると、スタート地点が違うと感じるのは自然なことです。
従来は「家庭環境が将来をほぼ決める」と考えられてきました。しかし、最新の大規模研究は、そこに別の視点を加えています。家庭の条件だけでなく、性格や知能も長期的な人生結果に関わっている可能性が示されたのです。
紹介するのは、“Do Personality Traits and Intelligence Moderate the Association Between Childhood Disadvantage and Adult Socioeconomic Outcomes?”という研究です。
米国のテキサス大学オースティン校(The University of Texas at Austin)などの研究者が実施し、『Social Psychological and Personality Science』に2015年に掲載されました。
今回も、性格研究者で悪者図鑑著者のトキワ(@etokiwa999)が解説していきます。
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目次
不利な育ちでも将来は変えられるのかという問いから始まる物語
不利な育ちとはどんな家庭環境か
まず大切なのは、不利な育ちは努力不足を意味しないという点です。
ここでいう不利な育ちとは、家庭の社会経済的な状況を指します。
社会経済的とは、お金や学歴などの条件のことです。
例えば次のような点が含まれます。
- 親の収入の多さ
- 親の学歴の高さ
- 家にある本の数
- 住んでいる家の広さ
もしあなたが本の少ない家で育ったらどうでしょうか。
図書館が遠い町に住んでいたらどう感じますか。
一方で、家に本が何百冊もあればどうでしょう。
学びやすさは違うかもしれません。
研究では、これらをまとめて家庭の状況としました。
そのうえで将来との関係を調べました。
つまり、不利な育ちは出発点の違いを表します。
努力の有無とは別の話だと考えられます。
まとめると、不利な育ちとは家庭の条件の差であり、個人の価値を決める言葉ではありません。
将来の成功は何で決まるのか
結論から言うと、家庭だけでなく性格と知能も関わっていました。
研究では次の3つを比べました。
- 家庭の状況
- 性格
- 知能
性格とは行動のくせのようなものです。
例えば誠実性とは、まじめでやり抜く力です。
知能とは、問題を理解し考える力です。
もしあなたが同じ家庭で育った2人だとします。
1人は最後までやり切るタイプです。
もう1人は途中であきらめやすいタイプです。
その後の進路は同じでしょうか。
研究では約8万人を11年間追跡しました。
その結果、性格と知能は将来に影響しました。
例えば1標準偏差上がると、
教育が最大8か月増えることもありました。
したがって、将来は1つの要因だけで決まるわけではないと示されました。
研究で使われた8万人の追跡データ
この研究の強みは、8万人以上を11年追いかけた点です。
調査は高校生のときに始まりました。
その後、11年後の姿を確認しました。
もしあなたが高校2年生だとします。
そのとき性格と知能を測られます。
そして11年後、社会人になった姿を調べます。
まるで未来の自分をのぞくようです。
調べた内容は次の3つです。
- 最終学歴
- 年収
- 職業の社会的地位
職業の社会的地位とは、
社会からどれくらい評価される仕事かです。
例えば歯科医は高く、運転手は低いなどです。
このように長い時間をかけて、
原因と結果の関係を探りました。
だからこそ、信頼しやすい結果になっています。
つまり、この研究は大規模で長期という点が特徴です。
比べられた3つの考え方
研究では、3つの可能性を比べました。
それぞれ考え方が違います。
- 独立効果
- 資源代替
- マタイ効果
独立効果とは、家庭と性格が別々に働く考えです。
資源代替とは、不利な人ほど性格や知能が強く働く考えです。
マタイ効果とは、恵まれた人ほど能力が活きる考えです。
もしあなたが貧しい家庭で育ったとします。
しかし、とても誠実だとしたらどうでしょう。
不利を埋められるでしょうか。
それとも差は広がるでしょうか。
研究はこの問いに答えようとしました。
その結果、多くは独立効果でした。
ただし知能では一部違う結果も出ました。
まとめると、能力と家庭の関係は単純ではありませんでした。
教育・収入・職業の3つを調べた理由
将来の成功を広く見るために3つの指標が使われました。
成功とは人によって違います。
そこで次の3つを選びました。
- 教育年数
- 年収
- 職業の地位
例えば教育は学歴を示します。
年収は生活水準を表します。
職業の地位は社会的評価を示します。
もしあなたが大学を卒業しても、
収入が低ければ満足でしょうか。
逆に学歴が低くても、
収入が高ければ成功と言えるでしょうか。
研究では2標準偏差の知能差で、
教育が約35か月増えました。
年収は約12094ドル増えました。
このように数字で比較しました。
だからこそ、具体的な差が見えました。
要するに、3つの視点で将来を立体的に見た研究でした。
不利な育ちと性格の関係はどうだったのかという新たな展開
性格は将来にどれくらい影響したのか
まず重要なのは、性格は将来に確かに関係していたという点です。
性格とは行動のくせや考え方の傾向です。
例えば誠実性は、まじめさや責任感です。
協調性は、人にやさしくできる力です。
外向性は、人と関わることを楽しむ傾向です。
もしあなたが最後まで宿題をやり切る人ならどうでしょう。
逆に途中で投げ出す人ならどうでしょう。
11年後の進路は同じでしょうか。
研究では、性格が1段階高いと、
教育が最大8か月長くなる場合がありました。
収入や職業の地位にも差が出ました。
ただし、その差は家庭の影響より小さいこともありました。
それでも性格は無視できない力でした。
つまり、性格は将来に一定の重みを持っていました。
誠実性が高い人の教育年数はどう変わるか
誠実性は教育に安定した影響を示しました。
誠実性とは、やるべきことを続ける力です。
宿題をためない性格とも言えます。
もしあなたが受験勉強を毎日続けるタイプならどうでしょう。
一方で気分でやめるタイプならどうでしょう。
積み重ねの差は広がるかもしれません。
研究では、誠実性が高い人は、
低い人より教育年数が長い傾向がありました。
特に家庭が恵まれていない場合、
誠実性の効果がやや強く出ました。
ただし知能を考慮すると、
その差は小さくなることもありました。
誠実性だけで逆転するとは言い切れません。
まとめると、誠実性は教育に役立ちますが、万能ではありません。
外向性や協調性の効果とは
外向性や協調性も一定の影響を示しました。
外向性とは、人と関わることが好きな傾向です。
協調性とは、人と争わず協力できる力です。
もしあなたが友達と協力して学ぶ人ならどうでしょう。
先生に積極的に質問できる人ならどうでしょう。
進学の情報も得やすいかもしれません。
研究では、これらの性格が高い人は、
教育や収入がやや高い傾向にありました。
例えば外向性が高い人は、
職業の地位が数ポイント高いことがありました。
ただし差は大きすぎるものではありませんでした。
家庭の影響を完全に消すほどではありませんでした。
したがって、外向性や協調性もプラスですが、決定打ではありません。
性格は不利な育ちをどこまで補えたか
結論として、性格は一部を補えましたが、完全ではありませんでした。
ここで補うとは、不利を小さくすることです。
もしあなたが家計が苦しい家庭で育ったとします。
しかし、とても誠実で努力家だとします。
その努力で差を縮められるでしょうか。
研究では、低い家庭状況の人でも、
性格が高いと教育や収入が上がる傾向がありました。
しかし裕福な家庭の人を、
必ずしも追い越せるわけではありませんでした。
例えば教育では、
差が数か月縮まることはありました。
ですが数年単位で逆転する例は多くありませんでした。
つまり、性格は助けになりますが、壁を完全には壊せませんでした。
性格だけでは逆転できなかった理由
性格の効果はあるが、家庭の影響も大きかったからです。
家庭の状況は教育機会に直結します。
例えば塾に通えるかどうかです。
大学の学費を払えるかどうかです。
もし同じ誠実性でも、
勉強環境が違えばどうなるでしょう。
教材の量や支援の差は無視できません。
研究では、家庭の影響は強く残りました。
性格の効果はそれより小さい場合が多かったのです。
特に知能を加えると、
性格の交互作用は弱まりました。
したがって、性格だけで不利な育ちを完全に覆すとは言えません。
環境と能力の両方が関わっていました。
まとめると、性格は重要ですが、環境の力も依然として大きいことが示されました。
不利な育ちと知能の関係はどうだったのかという核心
知能が高いと教育年数はどれくらい伸びたか
最も大きな差を生んだのは知能でした。
知能とは、考える力や理解する力です。
問題を素早く解く力とも言えます。
もしあなたが授業内容をすぐ理解できるならどうでしょう。
予習なしでも内容が入るとしたらどうでしょう。
勉強時間の効率は変わるかもしれません。
研究では、知能が2段階高い場合、
教育が約35か月長くなる傾向がありました。
35か月は約3年に近い差です。
つまり、高校卒業後の進学で、
大きな差が生まれる可能性があります。
この差は性格より大きいものでした。
したがって、知能は教育達成に強く関わっていました。
知能と収入の具体的な差
知能は収入にも明確な差をもたらしました。
収入は生活の安定を示す指標です。
もしあなたが複雑な仕事を早く覚えられるならどうでしょう。
資格試験に合格しやすいならどうでしょう。
昇進の機会は増えるかもしれません。
研究では、知能が高い人は、
年収が約12094ドル高い傾向がありました。
これは平均的な収入に対して、
無視できない差といえます。
また家庭が不利な場合、
知能の影響がより強く出る場面もありました。
収入では資源代替の傾向が見られました。
つまり、知能は生活水準にも強く影響していました。
知能と職業の社会的地位の違い
知能は職業の地位にも大きな影響を示しました。
職業の地位とは、社会からの評価の高さです。
例えば専門職と一般職では、
社会的な見られ方が違います。
もしあなたが難しい試験を突破できるならどうでしょう。
専門的な仕事に就ける可能性が広がります。
研究では、知能が高い人は、
職業地位が約33ポイント高い傾向がありました。
これは職種が変わるほどの差です。
つまり、知能は仕事の種類そのものに関わりました。
単なる収入差以上の意味を持っていました。
したがって、知能は社会的な立ち位置にも影響していました。
知能は不利な育ちを本当に補えたのか
一部では、知能が不利な育ちを補う結果が見られました。
特に収入ではその傾向がありました。
もしあなたが家庭の支援が少なくても、
高い知能を持っていたらどうでしょう。
自力で道を切り開けるかもしれません。
研究では、低い家庭状況でも、
知能が高いと収入が大きく伸びました。
増加率は最大で40%以上になる場合もありました。
しかし教育や職業地位では、
裕福な家庭ほど知能の効果が強い場面もありました。
これをマタイ効果と呼びます。
つまり、知能は状況によって働き方が変わりました。
性格より知能の影響が大きかった理由
全体として、知能の効果は性格より大きい傾向でした。
その理由はいくつか考えられます。
- 教育制度は学力中心で評価される
- 試験は理解力を測る形式が多い
- 専門職は高い知能を必要とする
もし同じ誠実性でも、
理解力に差があれば進路は変わるかもしれません。
研究では、性格の交互作用は、
知能を加えると弱まることがありました。
つまり、知能が多くを説明していた可能性があります。
ただし性格が無意味というわけではありません。
両方が将来に関わっていました。
まとめると、知能はより強い影響力を持ちつつも、性格も一定の役割を果たしていました。
不利な育ちでも見えた希望と限界という最終章
性格と知能のどちらが強かったか
全体としては、知能の影響のほうが大きい傾向でした。
ただし、性格も無視できませんでした。
性格とは行動のくせや態度の傾向です。
知能とは理解力や思考力の高さです。
もしあなたがまじめでも、
問題が理解できなければどうでしょう。
逆に理解は早くても、
努力しなければどうなるでしょう。
研究では、教育では知能の差が約35か月でした。
性格の効果はそれより小さい傾向でした。
収入や職業地位でも同様でした。
しかし性格は幅広い場面で安定して関わりました。
つまり、強さは知能が上でも、
役割は両方にあったといえます。
まとめると、知能がより強力でしたが、性格も将来を支える要素でした。
不利な育ちでも完全に追いつけるのか
結論は、完全な逆転は簡単ではないという点です。
家庭の影響は長く残りました。
もしあなたが経済的に苦しい家庭に生まれたらどうでしょう。
塾や教材の機会が限られるかもしれません。
研究では、性格や知能が高い場合、
差を縮めることはありました。
例えば教育で数か月分の差が減ることがありました。
しかし裕福な家庭の人を、
必ずしも追い越せるわけではありませんでした。
特に教育や職業地位では、
家庭の影響が依然として強く残りました。
したがって、個人の力だけで、
すべてを変えるとは言い切れません。
まとめると、不利な育ちは乗り越えにくい面もあると示されました。
多くの場合は独立して影響していた
最も多かったのは、独立効果という形でした。
独立効果とは、
家庭と能力が別々に働くことです。
もしあなたの家庭が不利でも、
能力はそのまま影響します。
逆に家庭が恵まれていても、
能力が低ければ伸びにくいです。
研究では、多くの場面で、
家庭と性格や知能は別々に効果を示しました。
つまり足し算のような関係でした。
特別に不利な人だけ、
能力が強く働く場面は限られていました。
この結果は意外かもしれません。
しかしデータではその傾向が見られました。
まとめると、家庭と能力は重なり合いながらも独立して影響していました。
不利な育ちと将来の関係は単純ではない
不利な育ち=失敗とは言えないことが分かりました。
しかし単純に努力で解決とも言えません。
もしあなたが高い知能を持っていても、
進学費用がなければどうでしょう。
逆に家庭が裕福でも、
学ぶ意欲が低ければどうでしょう。
研究では、収入では資源代替が見られました。
一方で教育ではマタイ効果も見られました。
つまり状況により違いがありました。
このように結果は一方向ではありませんでした。
場面ごとに働き方が変わりました。
したがって、不利な育ちは影響しますが、
それだけで将来は決まりません。
まとめると、将来は複数の要因が絡み合って形づくられていました。
この研究から若者が学べること
最も重要なのは、能力も環境も両方が大切という点です。
どちらか一方では足りません。
もしあなたが今高校生ならどうでしょう。
家庭はすぐには変えられません。
しかし学び方や行動は選べます。
研究では、知能が高いほど、
教育や収入が高い傾向でした。
また誠実性も教育に関わりました。
つまり、自分の行動を整えることは意味があります。
ただし社会の支援も同時に重要です。
個人努力と制度支援の両方が必要です。
この研究はその現実を示しました。
まとめると、不利な育ちがあっても可能性はあり、同時に社会の支えも欠かせないと分かりました。
最後に
不利な育ちはたしかに将来に影響します。しかし、この研究はそれだけで人生が決まるわけではないことも示しました。約8万人を11年間追跡した結果、知能は教育を最大約35か月伸ばし、収入を約12094ドル押し上げる傾向がありました。また、誠実性などの性格も教育達成に関わっていました。
一方で、性格や知能があっても、家庭の影響を完全に消せるとは言い切れませんでした。つまり、環境と能力の両方が将来を形づくっているのです。大切なのは、「不利だから無理」とあきらめないことです。同時に、個人の努力だけでなく、社会の支えも必要だと理解することです。
不利な育ちがあっても可能性はあります。ただしそれは、ひとりで戦うという意味ではありません。自分の力を伸ばしながら、支援や制度も活用する。その両方が未来を広げる鍵になると、この研究は教えてくれています。

ライター 兼 編集長:トキワエイスケ @etokiwa999
株式会社SUNBLAZE代表。子どもの頃、貧困・虐待家庭やいじめ、不登校、中退など社会問題当事者だったため、社会問題を10年間研究し自由国民社より「悪者図鑑」出版。その後も社会問題や悪者が生まれる決定要因(仕事・教育・健康・性格・遺伝・地域など)を在野で研究し、論文4本執筆(うち2本ジャーナル掲載)。社会問題の発生予測を目指している。凸凸凸凹(WAIS-Ⅳ)。








